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中澤水産有限会社
2026.10.09

兄弟の力を合わせ、相馬から新しいおいしさに挑戦。

創業から約50年。自社ブランド「OCEAN BROS」誕生。

日本百景の一つにも数えられる、福島県相馬市の松川浦。そのほとりに工場を構える中澤水産は、約50年にわたり地域の水産業を支えてきました。創業以来、主力としてきたのは鮮魚の卸売。浜で仕入れたヒラメなどを活魚車に積み、東京をはじめ全国の市場へ。現在も卸売が事業の中心ですが、近年は加工品づくりにも力を入れています。

その新たな挑戦を担っているのが、中澤久仁彦さんと弟の由樹さん。兄弟で立ち上げた自社ブランド「OCEAN BROS(オーシャンブラザーズ)」を通して、相馬の魚のおいしさを、これまでとは違ったかたちで届けようとしています。

「震災が起きるまでは、大学を卒業したら家業を継ぐつもりだったんです」。相馬で生まれ育った久仁彦さんは、宮城県内の大学に進学。大学2年生の時に東日本大震災が発生しました。

松川浦に面した中澤水産の工場も津波によって大きな被害を受け、地盤沈下や建物の損壊、機材の故障があったほか、水槽に入れていた松葉ガニも流出。久仁彦さんは父親(中澤正英社長)や由樹さんと連絡が取れず、安否さえ分からない時間を過ごしました。数日後、地元の友人からの電話で、ようやく二人の無事を知ることができたといいます。

しかし、震災に加え、原発事故によって福島の水産業の先行きは見通せない状況に。「そもそも福島で水産業を続けていけるのかも分からなかった」と振り返る久仁彦さんは、大学を卒業後、住宅設備メーカーに就職。千葉県で営業職として働きました。

一方、弟の由樹さんは兄より先に地元へ戻り、中澤水産へ。久仁彦さん転機が訪れたのは、実家へ帰省したゴールデンウィークのことでした。

「父から珍しく『そろそろ帰ってきてもいいんじゃないか』と言われたんです。それが大きかったですね。弟にも相談すると、『帰ってきてほしい』と背中を押してくれました」。そして、久仁彦さんは「家業や地域の助けになりたい」と帰郷を決意。10年間の会社員生活に区切りを付け、2023年に相馬へと戻りました。

中澤水産に入ってから半年ほど。魚を仕入れ、市場へ出荷するという従来の仕事に携わる中で、久仁彦さんにはある思いが芽生えたといいます。

「魚が減っていく中で、今までと同じことだけを続けていて大丈夫なのかなと。自分たちの商品をつくりたいと思ったんです」。

そこで由樹さんに「自社商品をつくろう」と相談。さらに、周囲から兄弟で仲良く家業に取り組んでいること自体が珍しいと言われたことから「それなら兄弟でやっていることを前面に出してみよう」と考えて「OCEAN BROS」という自社ブランドを立ち上げました。

弟の由樹さん(右)と自社ブランド「OCEAN BROS」を立ち上げ

変わりゆく海に向き合い、漁師と共に水産業の未来へ。

「OCEAN BROS」で大切にしているのは、松川浦や福島で水揚げされる魚介を使うこと。そして、毎日の食卓で手軽に楽しめる商品にすることです。そこには水産会社の後継者としてだけではなく、相馬を離れて暮らした久仁彦さんが、一人の生活者として感じていたことも活かされています。

「関東に住んでいた時、魚を食べたいと思っても、意外と手軽に食べられるものが少なかったんです。自分も妻も共働きなので、料理に時間をかけるより子どもと過ごす時間を大切にしたいですしね。そんな時に簡単に食べられる、おいしい商品があったらいいなと思っていたんです」。

そんな思いで作られた商品の一つが「平目と生海苔の海鮮ぶっかけ丼」です。主役は、常磐ものを代表する魚の一つであるヒラメ。久仁彦さんにとっても、子どもの頃から身近な魚でした。「相馬といったら、やっぱりヒラメなんです。福島の魚と聞いて、常磐もののヒラメを思い浮かべる人も多い。これは絶対に使いたいと思いました」

そこに合わせたのが、松川浦産の生海苔。さらにスルメイカやツブ貝を加え、やわらかなヒラメの身に、ツブ貝のコリッとした食感がアクセントになるよう工夫しています。味付けには、やや甘みのある白醤油をベースにしたタレを使用。子どもでも食べやすく、解凍すればそのままご飯にかけて味わえる手軽さも魅力です。「自分の子どもたちも大好きで。道の駅に置いてあったりすると『あったよ!』と教えてくれるんですよ」と久仁彦さんは笑います。

商品はテレビ番組で紹介されたことなどをきっかけに知名度も高まり、出荷数は年々増加。現在は、購入者から寄せられた「違う味も食べてみたい」という声を受け、ぶっかけ丼のシリーズ化も検討しています。

近年、海の環境は大きく変化しています。これまで相馬で獲れていた魚が減る一方、以前はあまり見られなかった魚が水揚げされることも増えてきました。中澤水産では、そうした変化を新たな商品づくりにつなげようとしています。

例えば、近年水揚げされるようになったタチウオやホッキ貝。その時々の海から届く素材を活かした商品開発を進めています。そこには、漁師とともに相馬の水産業を続けていきたいという久仁彦さんの思いがあります。

「僕たちの仕事は、漁師さんがいなければ成り立ちません。だから、魚をただ安く買うのではなく、適正な価格で買い続けることが重要です」。

中澤水産は全国の市場やスーパーへ魚を届けているからこそ、「今、どんな魚が求められているのか」というニーズを知る立場でもあります。その情報を漁師へ伝え、漁師は品質の良い魚を水揚げする。同社はそれを適正な価格で仕入れ、その価値を高めて消費者へ届けていく。久仁彦さんが目指すのは、そんな関係です。

「これまでそうだったように、これからも漁師さんと連携しながら、この浜を一緒に盛り上げていければと思っています」。

OCEAN BROSの挑戦は、中澤水産だけでなく、相馬の水産業のこれからの可能性にもつながっています。

COMPANY INFO 今回のつくり手さんの会社

中澤水産有限会社

住所
〒976-0022
福島県相馬市尾浜字平前49
取扱製品
平目と生海苔の海鮮ぶっかけ丼、味付けたこ、ボイルヤナギダコ ほか